名古屋の実家を凍結させない|認知症に備える生前対策を司法書士が解説
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相続より先にやってくる認知症。判断能力があるうちに備える生前対策
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なぜ認知症になると名古屋の実家が「凍結」してしまうのか?

結論からお伝えすると、不動産の売却や賃貸などの契約には「ご本人の判断能力」が必要だからです。判断能力が失われると、たとえ名義がご本人のものであっても、その不動産を動かせなくなります。

不動産を売る、貸す、建て替える、大規模な修繕をする——これらはすべて法律上の「契約」です。契約は、ご本人が内容を理解し、自分の意思で結ぶことが前提になります。認知症が進んで判断能力が十分でないと判断されると、この意思表示ができなくなり、売買契約も賃貸借契約も結べなくなってしまうのです。預金口座も、金融機関がご本人の認知症を把握すると、原則として引き出しや解約が止まります。

これがなぜ深刻かというと、今や認知症は「ごく一部の方の話」ではなくなっているからです。厚生労働省の研究班の推計では、2025年時点で認知症の高齢者は約443万人、その前段階とされる軽度認知障害(MCI)の方を合わせると約1,000万人にのぼるとされています。65歳以上の高齢者のおよそ3.6人に1人が、認知症またはその予備群という計算です。長生きをすれば誰にでも起こりうる、身近な問題になりました。

名古屋という土地柄も、この問題と無関係ではありません。名古屋の方は堅実で、持ち家志向が強いといわれます。中区や東区のマンション、名東区や千種区、緑区などの一戸建てなど、ご自宅という大きな資産をお持ちのご家庭が多いのが特徴です。資産の中心が「自宅という一つの不動産」に偏っていると、それが凍結したときの影響はとても大きくなります。

たとえば、こんな場面を考えてみます。名古屋市内の戸建てに一人暮らしをするお母様が、施設へ入ることになったとします。その費用を、誰も住まなくなった実家を売って捻出しようと考えました。ところが、すでにお母様の認知症が進んでいて、売買契約に必要な意思確認ができません。家は空き家のまま、固定資産税や管理の負担だけが続き、施設費用の工面にも困ってしまう——。実際に、こうした行き詰まりは決して珍しくありません。

しかも近年は、頼れる家族が近くにいない「おひとりさま」の高齢者が急増しています。国の推計では、65歳以上の単身世帯は今後も増え続け、2050年には1,000万世帯を超えるとも見られています。お子さんがいない方も増えており、「自分が判断できなくなったあと、誰がどう動いてくれるのか」を、元気なうちに決めておく必要性が高まっているのです。

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認知症に備える3つの方法|成年後見・任意後見・家族信託の違いは?

認知症に備える代表的な手段は「法定後見」「任意後見」「家族信託」の3つです。それぞれ目的や使い勝手が異なるため、ご家庭の状況に合わせて選ぶことが大切です。順番に見ていきましょう。

法定後見:判断能力が下がった「あと」の制度

法定後見は、すでに判断能力が低下してしまった方を支えるための制度です。

ご本人の判断能力が不十分になったあとに、ご家族などが家庭裁判所へ申し立て、選ばれた成年後見人が本人に代わって財産を管理します。判断能力が下がってからでも使えるのが、この制度の大きな役割です。

ただし、いくつか知っておきたい特徴があります。後見人は家庭裁判所が選ぶため、必ずしもご家族が選ばれるとは限らず、司法書士などの専門家が選ばれることもあります。また、後見人の役割は「本人の財産を守ること」が基本です。そのため、ご家族の都合に合わせた柔軟な資産の組み替えや、相続税対策のための生前贈与などは、原則として行えません。自宅など居住用の不動産を売却する際には、家庭裁判所の許可が必要になります。本人を守るための、慎重で手堅い仕組みだとお考えください。

なお、成年後見制度については、より使いやすくするための見直しの議論が国の審議会で進められています。今後、制度の内容が変わる可能性もありますので、利用を検討される際は最新の情報を確認することをおすすめします。

任意後見:元気なうちに「将来の支え手」を自分で決める

任意後見は、判断能力があるうちに、将来支えてくれる人を自分で選んでおく制度です。

「もし将来、判断能力が下がったら、この人に財産管理を任せたい」という相手と、元気なうちに契約を結んでおきます。この契約は、公証役場で公正証書として作成します。実際に判断能力が低下したときに、家庭裁判所が任意後見監督人を選び、契約がスタートします。

法定後見との違いは、「支え手を自分で選べる」点にあります。信頼できるご家族や専門家をあらかじめ指定できるため、ご本人の希望が反映されやすくなります。ただし、任意後見人ができることは契約で定めた範囲に限られ、財産を守るという基本の考え方は法定後見と共通しています。

家族信託:認知症後も不動産を「動かせる」ようにしておく

家族信託は、信頼できるご家族に財産の管理や処分を託しておく仕組みで、認知症になったあとも不動産を動かせる点が大きな特徴です。

家族信託(民事信託)では、財産を持つ方(委託者)が、信頼するご家族(受託者)に財産の管理を託します。たとえばお母様が委託者、息子さんが受託者となり、利益はお母様(受益者)が受け取る、といった形です。あらかじめ「実家を売って施設費用にあててよい」と定めておけば、その後お母様の判断能力が下がっても、受託者である息子さんの判断で家を売却できます。資産が凍結せず、ご本人のために柔軟に活用できるのが強みです。

不動産を信託する場合は、その不動産について「信託の登記」を行います。誰が受託者として管理しているのかを、登記簿上ではっきりさせる手続きです。この信託登記は、まさに司法書士が担う中核的な業務の一つです。一方で、家族信託は設計の自由度が高いぶん、ご家庭ごとに契約内容を丁寧に組み立てる必要があり、当初の費用は他の方法より高くなる傾向があります。また、信託は財産管理の仕組みであって、身の回りの世話(介護や入院手続きなど)そのものをカバーするものではない点にも注意が必要です。

これら3つは「どれか一つだけが正解」というものではありません。たとえば、財産管理は家族信託で備え、身上の保護は任意後見で補う、というように組み合わせて使うこともあります。ご家庭の事情やご本人の希望に合わせて、最適な形を考えていくことが大切です。

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元気なうちに何をすればいい?名古屋の不動産を持つ方の生前対策ステップ

生前にしておく備えは、将来の相続登記不動産売却を驚くほどスムーズにします。認知症対策と相続対策は、別々のものではなく地続きなのです。ここでは、具体的な準備の流れをご紹介します。

第一に、「財産の棚卸し」です。どこにどんな財産があるのかを、ご本人が元気なうちに一覧にしておきます。不動産であれば、その所在地・地番、固定資産評価額などを書き出しておくと、後々ご家族がとても助かります。名古屋では、自宅のほかに「先代から受け継いだ郊外の土地」や「相続で得た田畑」など、ご本人もうろ覚えの不動産を持っているケースが少なくありません。こうした見落としは、後の手続きでご家族を悩ませる原因になります。

この点で知っておきたいのが、2026年2月から始まった「所有不動産記録証明制度」です。これは、ある人が全国に持っている不動産を、法務局が一覧にして証明してくれる新しい制度です。ご本人はもちろん、相続が起きたあとは相続人も請求できます。「どこに不動産があるか分からない」という不安を解消する助けになります。ただし、制度が始まって間もないため、運用の詳しい点は法務局や専門家にご確認いただくのが安心です。

第二に、「遺言を残しておく」ことです。遺言、とくに公証役場で作成する公正証書遺言があると、相続が起きたあとの手続きが大きく変わります。遺言で「この不動産は誰に渡す」と決めておけば、相続人全員で話し合う遺産分割協議を経ずに、その内容に沿って相続登記を進められます。相続登記は2024年4月から義務化され、原則として不動産を相続したことを知った日から3年以内に申請しなければなりません。遺言があれば、この義務化された登記を、残されたご家族がスムーズに行えるのです。生前の準備が、相続後の負担を軽くするということです。

第三に、「不動産の出口を家族で話しておく」ことです。その家に住み続けるのか、貸すのか、売るのか。ご本人とご家族の考えを、元気なうちに共有しておきます。名古屋の不動産といっても、駅近で需要の高いエリアと、郊外で買い手が見つかりにくいエリアとでは、これからの見通しが異なります。一般的に、若い世代の人口が減っていくなかで、住む方の需要が細るエリアでは、資産価値を保ちにくくなるとも見られています。「いずれ売るなら、いつ動くのがよいか」を早めに考えておくことが、後悔の少ない選択につながります。

ここで大切なのは、こうした準備は専門家によって守備範囲が分かれている、という点です。登記の申請や信託登記、法務局を相手にする手続きは、司法書士が担う中核業務です。そして、不動産を実際に売るとなれば、宅地建物取引士としての売買の知識と実務が必要になります。生前対策から将来の相続登記、そして不動産の売却までを一つの窓口で見通せると、ご家族が複数の専門家を渡り歩く手間が省け、話が早く進みます。

想定されるケース:名古屋で一人暮らしのお母様の備え

説明のために、一つの想定例を挙げてみます。名古屋市名東区の一戸建てに一人で暮らす80代のお母様と、市外に住む50代の娘さんのご家庭を考えてみましょう。

お母様は今のところお元気ですが、物忘れが少しずつ増えてきました。娘さんは「将来、母が施設に入るとき、この家を売って費用にあてられるだろうか」と不安に感じています。そこで元気なうちに、自宅を対象にした家族信託を設計し、受託者を娘さんに定め、あわせて公正証書遺言も作成しました。さらに、所有不動産記録証明制度を使って、お母様名義の不動産に見落としがないかも確認しました。

数年後、お母様の判断能力が下がり、施設に入ることになりました。けれども娘さんは、受託者として実家を売却し、その代金を母の施設費用にあてることができました。相続が起きたあとも、遺言に沿って速やかに相続登記を済ませられました。元気なうちのひと手間が、いざというときの大きな安心につながった——そんなケースです。

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