不動産の売買というと、ふつうは不動産会社に依頼して物件の紹介や契約手続きを進めてもらうというイメージを持っている方が多いかと思います。ところが、最近では「信頼している知人に土地を売る」「親族同士で建物を譲る」といった、個人間で不動産をやり取りするケースが増えてきました。インターネットやSNSを通じて買主や売主を見つける人もいれば、身内や友人、近所の人とのあいだで話がまとまり、「不動産会社に仲介してもらわなくてもいいのでは」と考える方も少なくありません。
確かに、不動産会社を介さずに取引をすれば「仲介手数料が不要になる」「やり取りがシンプルで気楽」「お互いを知っているから安心」といったメリットがあるように見えます。とくに、費用をできるだけ抑えたいと考える方にとっては、個人間売買はとても魅力的に映るかもしれません。
しかし実際の現場では、「話がうまく通じていなかった」「書類が不十分で登記ができなかった」「後から税金の請求が来て驚いた」といった、トラブルや思わぬ出費の相談が後を絶ちません。法律に基づく契約内容の確認や、登記、税務処理といった専門的な手続きは、一般の方にとって分かりにくい部分が多く、たとえ信頼関係がある相手との間でも、しっかりとした準備と確認が必要なのです。
さらに、不動産の売買は「今さえよければそれでいい」というものではありません。将来的に売却を考えるときや、相続の場面になってから、過去の個人間売買の不備が原因で、大きな支障が生じることもあります。たとえば、権利関係が不明確なまま放置されてしまい、子どもたちが手続きに困ってしまうようなケースも実際に多く見られます。
このように、不動産の個人間売買は、表面上の簡便さとは裏腹に、見落としやすいリスクが数多く潜んでいるのが現実です。知らずに進めてしまえば、「こんなはずじゃなかった」と後悔することにもなりかねません。
そこで本記事では、司法書士かつ宅地建物取引士という不動産と法律の両面に精通した専門家の視点から、不動産の個人間売買に潜む“不都合な真実”について、3つの観点から丁寧に解説いたします。これから個人間での売買を検討している方や、すでに話が進んでいる方にとって、後悔のない判断ができるようになるためのヒントになれば幸いです。