不動産を売りたい、あるいは買いたいと思ったとき、まず思い浮かべるのは不動産会社を通じた仲介ではないでしょうか。確かに、売却や購入のプロセスをすべて任せられる点では、不動産業者の存在は安心につながります。一方で、最近では「知人同士」「親族間」「インターネット上で知り合った相手」などと直接取引する、いわゆる**個人間売買(当事者売買)**を選択する人も少しずつ増えています。
たとえば、相続した空き家を親戚に売りたい、住み替えのために知り合いに自宅を譲りたい、地域の掲示板やSNSを通じて土地を購入したいというように、情報化が進む現代では、売主と買主が直接出会い、交渉する機会も増えました。特に、都市部に比べて人間関係が密な地域では、顔の見える取引だからこそ安心感がある、という声もあるようです。
また、個人間で売買することで、不動産会社に支払う仲介手数料を削減できる点も大きな魅力のひとつです。売主・買主双方にとって、費用を抑えたシンプルな取引ができるというメリットは、非常に現実的で大きなポイントです。
ところが――。
そうした「自由」や「費用の節約」を重視して始めた個人間売買が、後に大きなトラブルに発展してしまうケースが、実際には数多く報告されています。
「ちゃんとした契約書を作らず、口約束だけで取引してしまった」
「境界がどこかわからないまま土地を購入して、隣人と揉めている」
「名義変更を依頼したつもりが、登記がされておらず所有権を失いかけた」
「家にシロアリ被害があることを知らずに買ってしまった」
「不動産取得税や固定資産税がこんなにかかるとは知らなかった」
――こうしたトラブルは、どれも「個人間売買」でよく起きる典型例です。
そして、その多くは「事前に専門家に相談していれば防げた」というものばかりなのです。
不動産の売買は、一般の方にとって一生に何度も経験するものではありません。しかも取引の金額は数百万円から数千万円に及ぶことが多く、人生の中でも非常に重要な経済行為に位置づけられます。それにもかかわらず、「手間を省きたい」「相手は知っている人だから」といった理由で、契約書を簡略にしたり、登記を先延ばしにしたりすることは、非常にリスクの高い判断です。
特に、日本の法律では「不動産売買における所有権移転は登記があって初めて第三者に対抗できる」とされています。つまり、「お金を払った=自分のものになった」と考えている方も少なくないのですが、登記をしないままでは、その不動産を第三者に売られてしまったとき、所有権を主張することができなくなる恐れすらあるのです。
また、建物や土地には、見えない法律上の制限や物理的な不具合が隠れていることがあります。例えば、接道義務を満たしていない土地、再建築不可の土地、市街化調整区域にある住宅、未登記の建物など、専門家の調査なくしては気づきにくいリスクが潜んでいます。さらに、固定資産税や不動産取得税の申告・納付、登録免許税など、法律上の手続きや納税義務も発生します。
これらの事柄は、不動産の法律・実務・税務に精通していないと、見落としたまま取引を進めてしまいがちです。いったん契約が成立してしまえば、「知らなかった」では済まされません。売主にも買主にも、後戻りできない負担や責任が生じてしまいます。
だからこそ、個人間売買を「安く済ませる方法」ではなく、「専門家の知識と経験を借りながら、合理的かつ安全に進める手段」として捉えることが、これからの時代には求められています。
私たちは、司法書士として登記の専門家であると同時に、宅地建物取引士として不動産取引の現場経験も豊富に有しています。個人間売買に関する実務的な注意点や、契約書作成の重要性、税務上の扱い、将来のトラブル防止策に至るまで、法と実務の両面から、お客様をトータルでサポートしています。
この記事では、個人間で不動産を取引する際に「何が問題になるのか」「どうすれば安全に進められるのか」そして「どのように専門家を活用すべきか」を、わかりやすく、丁寧にお伝えしていきます。トラブルを未然に防ぎ、納得と安心の取引を実現するための第一歩として、ぜひ最後までご覧ください。