A. 不動産売買契約書には、取引する物件の詳細、代金や支払方法、引渡しの時期、特約事項など、明確かつ具体的な内容を正確に記載する必要があります。不備のある契約書は後々のトラブルの原因になりますので、専門家による確認・作成がおすすめです。
不動産の売買は、一般的な商品の売買とは異なり、取引金額が大きく、また権利関係や物理的な状況が複雑であることが多いため、契約書の内容には法的・実務的な正確さと網羅性が求められます。特に個人間売買の場合、不動産会社のチェックが入らない分、「契約書さえあれば大丈夫だろう」と安易に考えてしまうこともありますが、実際には適切に作成された契約書があるかどうかで、将来的な安心感が大きく変わってきます。
以下では、売買契約書に最低限必要な項目と、そのポイントについて、ひとつずつ詳しくご説明します。
1. 不動産の表示(登記事項の正確な記載)
契約書には、売買の対象となる不動産を登記簿謄本(登記事項証明書)どおりに記載する必要があります。「東京都〇〇市〇〇町1丁目1番地の土地」のような住所だけでは不十分で、地番や家屋番号、種類(宅地、居宅など)、構造、床面積なども正確に書きます。
よくあるトラブルのひとつに、「実際に存在しない土地や建物を契約してしまった」「一部未登記の建物があった」というケースがあります。こうした事態を避けるためにも、法務局で最新の登記情報を確認したうえで記載することが大切です。
2. 売買代金、支払方法、支払時期の明記
不動産売買は高額な取引になるため、代金に関する条件を非常に明確に定める必要があります。
総額はいくらか
手付金があるか、いくらか、いつ支払うか
残金の支払い方法(振込・現金など)と支払日
これらを明記しないと、後日「聞いていない」「そんな約束していない」といったトラブルにつながります。
また、支払いの遅延や不履行があった場合のペナルティ(違約金や契約解除の条件)も定めておくことで、万が一の場合の対応がスムーズになります。
3. 引渡しの時期と条件、登記申請のタイミング
不動産の「引渡し」とは、物理的な引き渡し(鍵の受け渡しなど)と、**法的な権利の移転(登記)**の両方を含みます。
「残代金を支払った当日に引き渡す」「残代金支払いから1週間以内に引き渡す」など、明確な日付や条件を定める必要があります。また、買主が住宅ローンを利用する場合などは、融資実行日の関係で引渡し日がずれることもありますので、その旨も特約として記載しておくと安心です。
さらに、登記申請のタイミングや費用負担の分担(誰が登記費用を負担するか)についても明記しておくべきです。
4. 契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)に関する取り決め
民法改正により、「契約不適合責任」という新しいルールが導入されました。これは、売主が「引き渡した不動産が契約の内容に適合していない場合」に、一定期間、責任を負うというものです。
たとえば、「雨漏りがある」「シロアリの被害がある」「設備が壊れていた」などがこれに該当します。特に個人間売買では、売主が業者ではないため、「現状有姿(そのままの状態で引渡す)」とすることが多いですが、その場合でも、一定の責任免除の特約を明確にしておく必要があります。
書き方を間違えると、売主が想定以上の責任を負うことになる可能性があるため、法律の専門家によるチェックが重要です。
5. 公租公課(固定資産税など)の精算方法
不動産には毎年固定資産税や都市計画税といった税金がかかります。これらは、その年の1月1日時点の所有者に課税されますが、売買が途中の時期に行われた場合、売主と買主でその負担をどう分担するかを決めておく必要があります。
たとえば、「引渡し日を基準として日割りで精算する」といった方法が一般的です。金額の取り決めはもちろんですが、精算方法や支払方法も記載しておくと安心です。
6. その他の特約事項
取引の内容によっては、以下のような特別な条件や事情に応じた取り決めも必要になります。
境界未確定地についての測量義務
既存の賃貸借契約の承継について
解体条件付き売買
古屋付き土地の取扱い(建物滅失登記の義務など)
引越し期限、居住中引渡しの対応
買主の住宅ローン特約(ローンが通らなかった場合の解除条件)
これらの内容は、契約書の中でも最もカスタマイズが必要な部分であり、個別の事情に応じた法的配慮が求められるため、やはり司法書士などの専門家による助言や作成支援が重要になります。
契約書がすべての基本。将来のトラブル防止のために、今できる備えを。
個人間売買において、契約書の内容は「口約束を証明するもの」ではなく、「法的に責任の範囲を明確にするもの」として機能します。不明確な契約書や、ネット上のひな形だけで作成した契約書では、いざというときに法的効力が弱く、トラブル時に十分な保護が受けられないおそれがあります。
特に高齢の親から子への売買、相続対策の一環としての取引、知人間での柔軟な取決めなど、**画一的な契約書では対応できないケースが増えています。**そうした場合にこそ、司法書士のような法律と不動産に精通した専門家の出番です。
契約書は、「取引がうまくいくための土台」であると同時に、「もしものときに自分を守る盾」でもあります。個人間売買においては、特に契約書の精度が取引の成功・失敗を大きく左右することを、ぜひ覚えておいてください。