相続不動産の売却には「譲渡所得税」がかかる場合があります
相続した空き家を売却するとき、「思わぬ税金がかかるとは知らなかった」と驚かれる方は少なくありません。不動産を売ったときには、売却益(譲渡益)に対して「譲渡所得税」という税金が課される可能性があります。
譲渡所得とは、簡単に言えば「売却価格」から「取得費」と「譲渡費用」を差し引いた利益のことです。つまり、親から相続した家を売って利益が出た場合、その利益部分に対して所得税・住民税が課税されるのです。
しかし、相続によって取得した空き家の場合、**「取得費が不明」**であることが多く、税務上は「取得費ゼロ」とみなされることもあります。すると、売却代金のほとんどすべてが「利益」とされてしまい、想像以上の税負担が発生してしまうこともあります。
「空き家の3,000万円特別控除」とは?制度の概要と活用条件
こうした問題を軽減するために、国が用意しているのが「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除」という制度です。これは、一定の要件を満たした相続空き家について、その売却益から最大3,000万円までを非課税にできる特例制度です。
この特例が適用されれば、売却価格がある程度高くても課税されない、あるいは課税されてもごく少額で済む可能性があります。
ただし、この特例には細かな適用要件があり、すべてを満たしていないと控除は一切認められません。主な要件は以下の通りです(※2025年10月時点の制度に基づいて記載していますが、今後法改正等の可能性があるため、申告前には必ず最新の税制をご確認ください):
【主な適用条件】
被相続人(亡くなった方)が、一人暮らしで居住していた家屋であること
建物が昭和56年5月31日以前に建築されたものであること(旧耐震基準の建物)
相続後、その建物に誰も居住していないこと(空き家であること)
売却価格が1億円以下であること
建物を耐震改修するか、解体して更地にすること
売却が相続開始から3年目の年の年末までに完了していること
上記のように、特例を受けるには「相続後に誰も住んでいないこと」や「建物の耐震性」「売却の期限」など、複数の条件をクリアする必要があります。また、税務署に確定申告をする際には、これらの条件を満たしていることを証明する書類(登記事項証明書、解体工事証明書など)も必要になります。
制度が使えないケースも。使えるかどうか、早めの確認を
この3,000万円控除は非常に有利な制度ですが、**「条件を一部満たしていないだけで適用できない」**という厳しさもあります。
たとえば、以下のようなケースでは特例が使えなくなる可能性があります:
被相続人が施設(介護老人ホーム等)に入居していた
建物が親族によって居住用として使われていた
相続から3年目の年末を過ぎて売却した
建物を解体していないまま売却した
敷地の一部が第三者と共有になっている
また、売却時点では制度の対象になると思っていても、確定申告の際に書類が不十分だったり、要件を誤解していたために適用できなかったというトラブルも実際に起こっています。
そのため、空き家の売却を検討する際には、事前に司法書士や税理士、宅地建物取引士などの専門家に相談し、適用の可否や必要な準備についてしっかり確認しておくことが非常に重要です。
空き家の売却は、早めの行動がカギ。放置にはリスクも
相続した空き家をそのまま放置していると、税金の問題だけでなく、以下のような社会的・法的なリスクも発生します:
空き家特例の適用期限を逃す
老朽化により「特定空家」に指定され、固定資産税が増額される
倒壊や火災などの事故リスクが高まる
近隣住民とのトラブル(景観・治安・不法侵入など)
建物の価値が下がり、売却がますます難しくなる
現在、日本国内では高齢化の進展と人口減少により、空き家問題が深刻化しています。総務省の調査によると、全国の空き家は約849万戸(住宅総数の13.6%)にのぼり、今後も増加が見込まれています。こうした状況下では、「相続した家がいつまでも売れず、価値が下がり、税金だけがかかり続ける」という負のサイクルに陥るリスクも無視できません。
そうならないためにも、相続した不動産の売却は、早い段階から計画的に動き出すことが重要です。