「親が残したアパートがある」「亡くなった父が経営していたマンションを兄弟で相続した」――そんな状況に直面する方が、年々増えています。日本全国で増加し続けてきた収益不動産、特にアパートやマンションの“1棟所有”は、高度経済成長期やバブル期、あるいは相続税対策として建てられてきた背景があります。そして、いまやそれらの多くが“相続の現場”に差し掛かっています。
ところが、こうした不動産の相続は、一戸建てや土地だけの相続と比べても、格段に複雑です。単に「名義を書き換えるだけ」では済まない問題が、次々と表面化します。
まず、収益物件は家賃が入ってくる一方で、修繕や管理費、税金などのランニングコストが継続して発生します。場合によっては、ローンや保証金の返還義務なども引き継がれることがあり、安易に「相続=得」とは言い切れません。入居者との賃貸契約、建物の老朽化、空室率、さらには税務署との関係まで、幅広い知識と判断が求められます。
また、法制度も変わりつつあります。2024年4月からは相続登記が義務化され、相続人が登記を放置していると過料(最大で10万円)に処される可能性が出てきました。これまで「面倒だから」「家族で話し合いがついていないから」と先送りしてきた方にとっては、まさに“待ったなし”の時代です。
さらに、相続人が複数いるケースでは、「誰が管理するのか」「賃料収入をどう分けるか」など、収益と責任のバランスを取る合意形成も不可欠です。感情的なもつれや利害の衝突が起きやすく、親族関係にも影を落としかねません。
このような背景の中で、「アパートやマンション1棟の相続登記」をどう考えるべきか。登記手続きの基礎はもちろん、管理や税務の視点まで含めて、実際に何をすべきなのかを明らかにすることが、本記事の目的です。
この記事では、実務の現場で頻繁に起こる事例や失敗例にも触れながら、「これからの相続」に必要な知識と判断軸を、できるだけわかりやすく、実践的にお伝えしていきます。アパートやマンションを「守るための相続」として、あるいは「次世代に活かすための財産」として、どう扱うべきか。そのヒントを見つけていただければ幸いです。