相続した不動産を近所の方へ売却するという選択―安心して進めるための実務と注意点
ごとう司法書士事務所
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相続不動産を近所の方へ売却する際の重要なポイントを、実務に基づきわかりやすく解説します。
Point
1

「顔が見える売買」のメリットと見落としがちなリスク

近所の方への売却は、一般的な不動産会社を介した市場売却とは異なり、「相手の顔が見える取引」である点が大きな特徴です。特に長年同じ地域で生活してきた方同士であれば、生活環境や人柄、家族構成などについてある程度の理解があり、心理的な安心感を持って話を進められるという利点があります。名古屋市内でも、昔からの住宅地ではこうした関係性が残っており、「できればこの家を大切に使ってくれる方へ引き継ぎたい」というお気持ちから、近隣の方への売却を選ばれるケースが見受けられます。

また、実務面においても一定のメリットがあります。たとえば、内覧の日程調整が柔軟にできることや、物件の状況について日常的に共有しやすいこと、さらには条件交渉においても形式張らずに話し合いができる点などが挙げられます。不動産会社を通さない場合には仲介手数料が発生しないため、費用面での負担軽減につながる可能性もあります。こうした事情から、「話がまとまりやすい」「スムーズに進みやすい」という印象を持たれる方も多いでしょう。

実際に、名古屋市千種区でご相談を受けたC様の事例では、隣接地にお住まいの方が以前から購入を希望されていたこともあり、売却の話が持ち上がってから短期間で条件面の合意に至りました。買主の方は土地を一体利用できるメリットがあり、売主であるC様にとっても「信頼できる方に引き継げる」という安心感があったため、双方にとって納得のいく取引となりました。

しかしながら、このような「関係性の近さ」が、逆にリスクとして作用する場面も少なくありません。特に注意すべきなのが、手続きを簡略化しすぎてしまう点です。信頼関係があるがゆえに、「細かいことは書面にしなくても大丈夫だろう」「後で話せば分かるだろう」といった判断になりやすく、契約内容を曖昧なまま進めてしまうケースが見受けられます。

たとえば、以下のような点はトラブルの原因となりやすい典型例です。
・土地の境界が確定していないまま引き渡してしまう
・建物の老朽化や設備の不具合について十分に説明していない
・代金の支払い時期や方法を明確に取り決めていない
・引渡し後の修繕負担について合意がない

これらは一見すると些細な問題のように思えるかもしれませんが、不動産という高額な財産が関わる以上、後から認識のズレが生じた場合には大きな紛争へと発展する可能性があります。そして何よりも深刻なのは、こうしたトラブルが単なる金銭問題にとどまらず、これまで築いてきた近隣関係そのものに影響を与えてしまう点です。

実際に、名古屋市内の別のご相談では、「口頭で説明したはずの設備不具合について、買主側は聞いていないと主張し、関係が悪化してしまった」というケースもありました。本来であれば防げたはずの問題でも、書面化していなかったことで解決が難しくなってしまうのです。

このように、「知っている人だから安心」という側面と、「知っている人だからこそ曖昧になりやすい」という側面は、表裏一体の関係にあります。不動産取引においては、どれほど信頼関係があったとしても、契約内容を明確にし、客観的な形で記録として残すことが不可欠です。

安心して取引を進めるためには、「関係性に頼りすぎないこと」がむしろ重要です。適切な書面作成と事前の確認を丁寧に行うことで、双方が納得し、将来にわたって良好な関係を維持できる取引へとつながります。

Point
2

個人間売買で必ず押さえるべき法律・登記のポイント

不動産の個人間売買は、「知り合い同士のやり取りだから簡単に進められるのでは」と思われがちですが、法律上の取扱いは不動産会社を介する場合と何ら変わりません。むしろ専門家が間に入らない分、契約内容の整理や法的リスクの把握を当事者自身で行う必要があり、実務的にはより慎重な対応が求められます。特に相続が関係する場合には、通常の売買以上に確認すべき事項が多くなります。

まず最も重要なのが「売買契約書の作成」です。契約書は単なる形式的な書類ではなく、万が一トラブルが生じた際に当事者の権利義務を明確にする基準となるものです。具体的には、売買代金や支払方法といった基本事項に加え、引渡しの時期、固定資産税の精算方法、設備の引継ぎ内容、そして契約不適合責任(従来の瑕疵担保責任に相当)などについても、できる限り具体的に定めておく必要があります。近所の方との取引であっても、「言った・言わない」の争いを防ぐためには、こうした内容を丁寧に書面へ落とし込むことが不可欠です。

次に、「登記手続」の重要性についてです。不動産の所有権は、売買契約を締結しただけでは完全に移転したことにはならず、法務局において所有権移転登記を行うことで初めて第三者に対抗できる権利となります。特に相続不動産の場合、被相続人名義のままでは売却手続を進めることができないため、事前に相続登記を完了させておく必要があります。

この点については、2024年から相続登記が義務化されたことも大きなポイントです。相続開始を知った日から3年以内に登記を申請しなければならず、正当な理由なく放置した場合には過料が科される可能性があります(※制度の詳細や運用は変更される可能性があるため、最新の法令の確認が重要です)。近年はこの義務化の影響もあり、「売却したいが名義変更が済んでいない」というご相談が増えている印象があります。

さらに見落とされがちなのが、「権利関係や法的制限の事前確認」です。たとえば、
・土地の境界が未確定である場合
・接道義務を満たしていないため再建築ができない場合
・私道の持分や通行権に問題がある場合
・抵当権などの担保権が残っている場合

といった事情があると、売買そのものに影響が及ぶことがあります。名古屋市内でも、古くからの住宅地では境界が曖昧なまま利用されている土地や、接道条件を満たしていない物件が一定数存在します。これらは買主にとって重大な判断材料となるため、事前に調査し、必要に応じて測量や権利整理を行うことが望ましいといえます。

実際に、名古屋市西区でご相談を受けたD様のケースでは、売却直前になって隣地との境界に争いがあることが判明し、取引が一時中断した事例がありました。このような問題は、事前に専門家が関与していれば早期に把握できた可能性が高く、結果としてスムーズな売却につながったと考えられます。

個人間売買においては、「契約」「登記」「事前調査」という3つの柱をしっかり押さえることが、安全な取引の前提となります。形式的な手続きを軽視するのではなく、一つ一つのステップを確実に進めていくことが、後々の安心につながります。特に相続不動産の場合は、通常の売買よりも複雑な要素が絡むことが多いため、早い段階で専門的な視点を取り入れることが重要といえるでしょう。

Point
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税務と価格設定―「近所だから安く」は本当に良いのか

近所の方への売却においては、「これまでお世話になってきたから」「安心して使ってもらえるなら多少安くてもよい」といったお気持ちが働くことが少なくありません。人間関係を大切にする名古屋の地域性から見ても、ごく自然な判断といえるでしょう。実際に、当事者同士が納得していれば問題ないように思えるかもしれません。

しかしながら、不動産の売買価格は当事者の合意だけで自由に決められるものではある一方で、税務上は「適正な時価」との関係が重要な意味を持ちます。売却価格が市場価格とかけ離れている場合、税務署から「実質的には贈与ではないか」と判断される可能性があり、その結果として思わぬ税負担が発生することがあります。

具体的には、著しく低い価格で売却した場合、買主側には贈与税が課されるリスクがあり、売主側においても譲渡所得の計算に影響が及ぶ可能性があります。譲渡所得税は、「売却価格-取得費-譲渡費用」によって算定されますが、極端な価格設定はこの計算の前提そのものに疑義を生じさせることになります。

名古屋市守山区で実際にあったE様の事例では、近隣の方へ相場よりも大幅に低い価格で売却したところ、後日、税務署から取引内容について照会がありました。最終的には修正申告が必要となり、当初想定していなかった税金と手続負担が発生してしまいました。このように、「好意で安くしたつもり」が、結果として双方に不利益をもたらすこともあるのです。

また、価格設定を考える上では、現在および今後の不動産市場の動向を踏まえることも重要です。日本全体としては、少子高齢化の進行により住宅需要は長期的に減少傾向にあります。一方で、高齢者の増加に伴い相続不動産が市場に供給されるケースは増えており、特に郊外エリアでは空き家の増加が顕著です。

さらに、近年は建築資材の高騰や人件費の上昇により新築住宅の価格が上昇しており、結果として中古不動産との価格バランスにも変化が生じています。加えて、世界的なインフレや所得格差の拡大といった影響から、不動産を購入できる層とそうでない層の二極化も進んでいます。

名古屋市内においても、中心部の利便性が高いエリアと、郊外の住宅地とでは需要の動きに差が見られます。投資用として注目される物件と、実際に居住するための物件とでは評価のされ方も異なり、「誰にとって価値がある不動産なのか」を見極めることが、適正な価格設定には欠かせません。

そのため、たとえ近所の方への売却であっても、まずは客観的な相場を把握することが出発点となります。不動産会社の査定や公示価格、取引事例などを参考にしながら、「第三者に売るとしたらいくらになるのか」という視点を持つことが大切です。その上で、双方が納得できる範囲で価格調整を行うことが、税務リスクを抑えつつ円満な取引につながります。

不動産の価格は単なる数字ではなく、税務・法律・市場環境と密接に関わる重要な要素です。「近所だから」という理由だけで安易に決めてしまうのではなく、根拠のある価格設定を行うことが、将来にわたる安心につながるといえるでしょう。

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