親がブラジル国籍だった——名古屋に残された「実家」を相続したら、まず知っておきたいこと
ごとう司法書士事務所
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大切なのは、相続登記の義務化という期限を意識して、早めに名義を整えること。
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最初の関門は「どの国の法律で相続するか」——準拠法と相続登記の義務化

ブラジル国籍の親が亡くなったとき、相続は日本法かブラジル法か

ご家族にブラジル国籍の方がいる相続で、最初に整理しておきたいのが「どの国の法律にしたがって相続するのか」という点です。これを法律の世界では「準拠法(じゅんきょほう)」と呼びます。

日本の法律(法の適用に関する通則法36条)では、「相続は、被相続人(亡くなった方)の本国法による」と定められています。文字どおり読むと「ブラジルの法律で相続する」ことになりそうです。ところが、ここに大切な仕組みがあります。ブラジルの相続のルールは、財産が動産か不動産かを区別せず、「亡くなった方が住んでいた国の法律にしたがう」という考え方(住所地法主義)をとっています。

つまり、ブラジル国籍であっても日本(名古屋など)に住んでいた方が亡くなった場合、ブラジルの法律が「日本の法律で相続してください」と日本へ送り返してくる形になります。これを「反致(はんち)」といい、日本では通則法41条で認められています。結果として、名古屋にお住まいだったブラジル国籍の方の相続は、日本の民法にしたがって進められるケースが多くなります。

ただし、これはあくまで一般的な考え方です。被相続人がブラジルにも財産を残していた場合や、住所の認定が微妙なケースでは結論が変わることもあります。ご事情によって判断が分かれる繊細な部分ですので、自己判断せず、登記と国際相続の両方を扱える専門家に確認されることをおすすめします。

そして、もう一つ忘れてはならないのが「相続登記の義務化」です。2024年(令和6年)4月1日から、不動産を相続した方は、相続によって自分が所有者になったことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければならなくなりました。正当な理由なくこれを怠ると、10万円以下の過料(ペナルティ)の対象になります。さらに注意したいのは、この義務が過去の相続にもさかのぼって適用される点です。2024年4月より前に発生していた相続については、2027年(令和9年)3月31日までに登記を済ませる必要があります。「親が何年も前に亡くなったまま、家の名義がそのまま」というお宅は、まさに今、動き出すべきタイミングなのです。

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名古屋に残された「実家」をどうするか——売るか、持ち続けるか

空き家のまま持つ重さと、名古屋の不動産事情

名義の整理ができたら、次は「この家をどうするか」という、いちばん悩ましい問いに向き合うことになります。

在日ブラジルの方の世界は、この30年で大きく変わりました。出入国在留管理庁の統計では、日本で暮らすブラジル国籍の方は約21万5千人(2024年時点)にのぼり、在留外国人のなかで5番目に多い国籍です。そのうち約28%が愛知県に集中しています。かつては「いつか母国へ帰る」前提の出稼ぎが中心でしたが、今は永住者が11万人を超え、日本に根を下ろす定住の時代へと移りました。日本国籍を取得する帰化も着実に進み、ブラジル国籍の方の帰化者数は2023年に526人、2024年に498人と、毎年数百人規模で続いています。つまり「親はブラジル国籍、子は日本国籍」というご家庭が、名古屋にはとても多いのです。

こうした背景のなか、二世・三世の方が受け継ぐのが、親世代が苦労して手に入れた名古屋やその近郊の一戸建てです。住む予定がないまま空き家にしておくと、固定資産税の支払い、草木の手入れ、近隣への気づかいといった負担がじわじわと続きます。

では「持ち続ければ資産として安心」かというと、そう単純でもありません。不動産の今後を考えるときは、いくつかの大きな流れを冷静に見ておく必要があります。日本全体では若い世代が減り、住まいの「買い手」そのものが細っていきます。一方で、団塊の世代が高齢になり、これから相続される空き家は増えていきます。買い手が減り、売り物が増えれば、価格は地域によって大きく差が開いていきます。実際、愛知県の空き家率はすでに約11.8%に達しています。

もっとも、名古屋の市街地は全国のなかでは比較的しっかりしている地域です。名古屋市の中古マンション価格は緩やかな上昇が続き、70㎡換算で2024年には2,700万円前後まで上がりました。2026年の公示地価でも、愛知県の住宅地は前年より1.8%ほど上昇しています。ただし、これは投資家が買うような中心部・人気エリアの動きが大きく、ふつうに住むための郊外の家とは値動きが違う、という点に注意が必要です。世界的な物価高で建築資材が値上がりし、新築が高くて手が届きにくくなっている今、立地のよい中古住宅にはまだ需要があります。逆に、駅から遠い・需要の薄いエリアの家は、これから資産価値を保ちにくくなることも予想されます。「売るなら、買い手がいるうちに」という判断が、結果的にご家族を守ることにつながる場合があるのです。

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売却を成功させるための実務と税金——3,000万円の特別控除という心強い味方

実例で見る、相続登記から売却・節税までの流れ

ここで、実際にあったご相談に近い例(個人が特定されないよう内容を変えています)をご紹介します。

名古屋市港区にお住まいだった、ブラジル国籍のお父さまが亡くなりました。相続人は、すでに日本国籍に帰化された50代の長女のNさんと、ブラジルで暮らす弟さんのお二人。お父さまの名義の古い一戸建て(昭和50年代の建築)が残されていました。Nさんは「弟は遠方で連絡も取りづらく、家は誰も住んでいない。でも何から手をつければいいのか分からない」と、とても不安そうに来所されました。

私どもはまず、お父さまが名古屋に長く住んでいた事実を確認し、日本の民法にしたがって相続を進められると整理しました。次に、ブラジルにいる弟さんとは、現地の在外公館で取得できるサイン証明などを使って遺産分割協議をまとめ、相続登記を申請。名義をNさんに整えたうえで、宅地建物取引士として売却の段取りまで一貫してお手伝いしました。古い家屋は解体して土地として売り出し、立地のよさもあって買い手が見つかりました。

このとき大きな支えになったのが、「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの3,000万円特別控除」です。これは、亡くなった方がひとりで住んでいた古い家(昭和56年5月31日以前に建てられたものなど)を相続した人が、一定の条件を満たして売却したとき、売却益から最大3,000万円(相続人が3人以上の場合は2,000万円)を差し引ける制度です。売却の期限は、相続が始まった日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで。この特例は2027年(令和9年)12月31日までの売却に適用されると延長されています。条件にあてはまれば、税負担を大きく減らせる心強い味方です。

ただし、この控除には家屋の耐震基準や解体の有無など細かな要件があり、適用できるかどうかはケースごとに判断が必要です。税金の最終的な計算や申告は税理士の領域になりますので、私どもは正確を期すため、提携する税理士と連携しながらご案内しています。情報は本記事作成時点(2026年6月)のものであり、税制は改正されることがあります。実際に売却を検討される際は、必ず最新の内容をご確認ください。

このように、ブラジル国籍が関わる相続では、「準拠法の見極め」「相続登記」「不動産の売却」「税の特例」が一本の線でつながっています。それぞれ別々の専門家に頼むと、書類のやり直しや余計な手間が生じがちです。登記の専門家である司法書士であり、不動産取引の専門家である宅地建物取引士でもある——その両方を一人が担うからこそ、最初から最後まで筋の通ったご提案ができるのだと考えています。

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