なぜ「安く売る」が思わぬ落とし穴になるのか
親子だからこそ「相場より安く譲ってあげたい」と思うのは、親心として自然なことです。けれども、ここに大きな落とし穴があります。著しく安い価格で売買すると、先ほど触れた「みなし贈与」と判断され、時価との差額に贈与税がかかってしまうのです。
たとえば、時価3,000万円の自宅を、子のためを思って1,000万円で売ったとします。すると、差額の2,000万円が「実質的な贈与」とみなされ、子に高額な贈与税が課される可能性があります。良かれと思った値引きが、かえって子の負担を重くしてしまう——これは本当に避けたい事態です。
「時価のおおむね8割」が一つの目安とされる理由
では、いくらなら安心なのでしょうか。実務では「時価のおおむね8割程度」が一つの目安とされています。これは、市場相場の約80%という水準について「著しく低い割合とは言えない」と判断した過去の裁判例が広く参考にされているためです。
ただし、これはあくまで目安であって、「8割なら必ず安全」と保証する基準ではありません。「時価」そのものをどう見積もるかも難しく、実務では実勢価格(実際の売買相場)、公示価格、相続税路線価、固定資産税評価額といった複数のものさしを照らし合わせて、慎重に適正な価格を探っていきます。税務の最終的な判断は個別の事情に左右されるため、価格設定にあたっては税理士や所轄の税務署にも確認されることを強くおすすめします。
なお、贈与に関する税制は近年変わってきています。2024年(令和6年)からは、相続時精算課税制度に年110万円の基礎控除が新設され、暦年贈与については相続財産に足し戻す期間が従来の3年から7年へ段階的に延長されました。親子間売買と生前贈与のどちらが有利かは、ご家庭の資産状況によって答えが変わります。売買だけ、贈与だけと決めてかからず、全体を見渡して最適な形を選ぶことが大切です。